GNOME 3.4 リリースノート

1. はじめに

GNOME プロジェクトは、すべての人のためにすばらしいソフトウェアを作り上げるために活動する国際的なコミュニティです。GNOME は、使いやすさ、安定性、第一級の国際化、およびアクセシビリティの向上に重点的に取り組んでいます。GNOME はフリーソフトウェア・オープンソースソフトウェアです。つまり、すべての成果物は自由に使用、修正、再配布することができます。

GNOME は、6か月ごとにリリースされます。直前のバージョン 3.2 から、約 1275 人の人々が およそ 41000 個の変更を GNOME に加えました。私たちの活動に興味がありますか? Identi.caTwitter、あるいは Facebook で私たちをフォローしてください。

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また、Friend of GNOME になって、経済面での支援をすることもできます。

2. 新しくなったこと 〜ユーザー向け〜

図 1GNOME 3.4

3.4 は 2011 年 4 月の 3.0 のリリースから数えて 2 回目の GNOME のリリースです。3.4 はバグの修正やちょっとした機能強化に加え、多くのユーザー体験の向上をもたらします。結果として、より輝かしく、さらに洗練され、信頼性の高い GNOME 3 となりました。

このリリースでもいくつかの重要で新しい進展が見られます。我々はアプリケーションのデザインや発展に注力してきましたが、今回のリリースで多くのアプリケーションにかなりの更新が含まれています。また、アプリケーションの構成要素にも改善が成されたことに気づくでしょう。スムーズなスクロール、一新されたユーザーインターフェースのコンポーネント、リファインされたビジュアルテーマやアプリケーションメニューなどです。

このリリースの他のハイライトとしては、ドキュメントの新しい検索機能、Boxes という新しいアプリケーション、ビデオコール、一日の時間の移り変わりに沿ってアニメーションする新しい背景、などです。Enjoy!

2.1. 新しい外観の GNOME 3 アプリケーション

アプリケーションについて、今回のリリースサイクルでは大きなテーマがありました。3.2 でリリースされたアプリケーションについてはよりよい見た目と、使っててより楽しいものになるよう、大きく更新されました。既存のアプリケーションについても大きく見直され、GNOME 3 とより一体感を持つようになりました。

図 2Documents

ドキュメントを簡単に表示し、検索、管理できる新しいアプリケーションの Documents のデザインが大幅に更新されました。結果としてより新鮮で、すっきりとしたアプリケーションになりました。新しいバージョンのインターフェースは更新され、ドキュメントのコレクションの作成ができるようになり、印刷がサポートされました。

図 3Epiphany の新しい姿。 Web という名前

GNOME のウェブブラウザー EpiphanyWeb という名前になりました。3.4 向けに美しい新しいインターフェースが与えられ、ツールバーと「スーパーメニュー」がデザインし直されました。履歴のブラウズも高速になるなど、性能もかなり向上しました。

図 4Contacts

新しい連絡先管理アプリケーションもまた大幅に更新されました。メインの連絡先リストは改良され、連絡先の詳細表示のレイアウトが追加されました。Contacts は、インラインでのリンクの提案や、アバターの新しい選択機能などの他の新しい機能もサポートしています。

ディスクGNOMEディスク・ユーティリティ の新しい名前で、大幅にゼロから見直されました。このツールではコンピューター上のディスクを管理できますが、インターフェースが更新され、GNOME との統合が改良され、新しいいくつかの機能も追加されました。

更新された他のツールとしてパスワードと鍵があります。このアプリケーションもより洗練され、エレガントなユーザーインターフェースになりました。

2.2. ドキュメントの検索

図 5アクティビティ画面からのドキュメントの検索

アクティビティ画面から検索すると、アプリケーションや連絡先、システムの設定に素早くアクセスすることが既に実現されています。このリリースでの重要な新機能は、それらに加えてドキュメントの検索結果も表示されるようになったことです。これによりすぐに手の届くところでドキュメントの検索ができるようになったということになります。

新しいドキュメントの検索機能は Documents アプリケーションによって直接提供されています。結果として、コンピューター上のドキュメントだけでなく、オンラインアカウントに保存されているドキュメントも検索できます。

アクティビティ画面での検索機能がアプリケーションと連携できるようになったことで、将来的には他の種類のコンテンツ、たとえば、音楽やビデオも検索できるようになるでしょう。

2.3. アプリケーションメニュー

図 6アプリケーションメニュー

アプリケーションメニューは将来においてGNOMEのアプリケーションで徐々になじみ深いものになるであろう新機能です。このメニューはトップバーにアプリケーションの名前のラベルで表示され、(特定のウィンドウではなく)アプリケーション全体に影響を及ぼすようなオプションを表示するためのスペースとなります。たとえば、アプリケーションの設定やドキュメント、といったものです。

このリリースでは、DocumentsWeb、そして Contacts などの多くのアプリケーションで既にアプリケーションメニューを使うようになっています。

フォーカスフォローマウスのユーザー

フォーカスフォローマウス のユーザーに例外が設けられます。クラシックなメニューバーが表示されます。

2.4. 一新されたユーザーインターフェースのコンポーネント

このリリースで、多くのアプリケーションのインターフェースのコンポーネントが近代化されました。この変更によりアプリケーションはよりエレガントになり、使いやすくなりました。主にクリックが難しいターゲットを取り除くことに集中しています。

図 7新しい色選択の外観

色選択ダイアログが、3.4 で更新されました。新しいデザインは、上品な色のパレットに簡単にアクセスできます。ユーザーで作成した色のセットを作りだす方法も同様です。以前のバージョンよりも、ますます直感的に使えるようになっています。

スクロールバーも 3.4 で更新したコンポーネントです。新バージョンでは、使用するスペースを小さくし、スクロールバーに昔からあった小さな「ステッパー」ボタンを取り去りました。これによりとりわけ対象のクリックが難しくなることもあります。

また、3.4 ではスピンボタンのデザインも一新しました。これまでは使いにくい厄介なものでした。新バージョンでは、使いやすさがぐっと向上し、見た目も素晴らしくなりました。

最大化すると、アプリケーションによってはタイトルバーが非表示になります。これにより、アプリケーションが使用する領域をより広く確保できるようになります。

2.5. ちょっとした改良も山ほどあります

インクリメンタルな改良と洗練は、このリリースの大きな焦点でした。小さな改良をたくさん加えることで、大幅な品質向上を実現できました。

ビジュアルテーマは、このリリースで大きく洗練されました。変更の多くは些細なものですが、テーマのほとんどが何らかの形で改良されています。全体としてみれば、アプリケーションの見栄えの大幅な向上につながりました。

Every Detail Matters という新しい取り組みでは、今回のリリースに向けてアクティビティ画面の品質向上に注力しました。この取り組みでは、細部の見直しを多く行い、たとえば、アプリケーションランチャーのラベルの改良、ウィンドウラベルとキャプションの一新、キーボードナビゲーションの改善、テキストスタイルの読みやすさの向上、ダッシュボードの使いやすさの向上などを実現しました。

GNOME 3.4 では、他にも多くの漸進的な改良を行いました。いつものことながら、改良点はあまりにも多く、すべてをここで取り上げることはできませんが、その一部を以下に列挙します。

  • ネットワークパスワード入力ダイアログ (VPN のパスワードも含めて) は、これまで GNOME 2 のスタイルのままでした。今では、GNOME 3 スタイルに十分に統合されました。
  • おさかな君のワンダが帰ってきました! そう、GNOME 2 からの信頼できる友人のワンダです。あのおさかな君が帰って来たのです。おさかな君は、イースターエッグです。どこにいるかは教えられません。探して見つけてください。
  • 組み込みのスクリーンレコーダーは、よりなめらかなビデオを作成できるようになり、また使用するシステムリソースも小さくなりました。スクリーンレコーダーを使うには、ただ Control+Shift+Alt+R を押すだけです。
  • システムモーダルダイアログのビジュアルレイアウトが 3.2 から改善しました。結果としていっそう見栄えが良くなりました。
  • ポップアップ通知は、よりインテリジェントになり、マウスやタッチパッドのポインターを避けるようになりました。もうユーザーの邪魔はしません。
  • メッセージ通知関連のもうひとつの重要な強化が、メッセージトレイにあります。メッセージトレイは、通知の概要を表示するものですが、少しの間デバイスを操作していなければ、トレイが表示されるようになりました。これにより、継続中の会話や未返答のメッセージに気づきやすくなります。

2.6. スムーズスクロール

GNOME 3.4 でスクロールがスムーズになりました。前のリリース時点のコンテンツのスクロールは少しぎこちないものでした。今では、なめらかで、優雅な動作となっています。スクロール操作は、緩やかで止まりやすく、実際にものに触れるような感覚です。これは大きな改良であり、GNOME アプリケーションがはるかに楽しく満足のいくものになります。

スムーズスクロールは、進行中のタッチ入力機能の最初のものであり、これからより多くの機能を提供が予定されています。

2.7. アニメーション壁紙

図 8朝、昼、そして夜

デフォルトの背景 (「壁紙」のことです) がこのリリースで更新されました。新バージョンは、以前からあったストライプ模様の背景を新しくしたものです。また、この新しくなった背景は、時間の経過とともに変化します。日中はより明るく、夜になると暗くなります。

2.8. 改良したシステム設定

システム設定は、3.4 向けに多くの更新があります。変更点には、以下のものがあります。

図 9電源設定。非常にきれいになりました
  • ネットワークのパネルレイアウトを改善しました。今では、個々のネットワーク設定を意識しなくてもかまいません。
  • 電源パネルは見栄えがよくなりました。状態セクションのデザインを見直しました。
  • ワコム グラフィックスタブレットのサポートを強化しました。複数タブレット設定の新機能や、位置調整、ボタンの割り当てなどの機能を搭載しました。
  • いくつかのパネルの名称を変更し、「すべての設定」ボタンを更新したため、操作がしやすくなりました。

2.9. ハードウェアのサポートの改善

ハードウェアのサポートと統合に取り組んだ、本リリースに盛り込まれたいくつかの小さな改良により、GNOME 3 はより多くのハードウェアデバイスをサポートし、シームレスな体験を提供します。

  • さまざまなカラーキャリブレーションの改善。それぞれのデバイスに対して固有のカラープロファイルを記憶するようになりました。
  • ドッキングステーションや外部モニターの扱いの改善。外部モニターが接続されている場合、画面を閉じたとしてもノートパソコンは動作し続ける (サスペンドしない) ようになりました。
  • USB スピーカーやヘッドセットでのボリュームキーのサポート。
  • マルチシート (multiseat) 設定の新規サポート。USB 接続可能なマルチシートデバイスなどに対応しました。

2.10. 本当に助けとなるドキュメント

従来のユーザードキュメントは紙の本のように書かれています。良い物語でありながらも、非常に長く、通読するのに時間がかかってしまうようなものです。これは、あるタスクを行なう方法を手早く見つけ出したい場合、理想的ではありません。この問題に対処するため、アプリケーションは、トピック指向のドキュメントを提供できるように少しずつ更新されています。次のアプリケーションは、GNOME 3.4 で新しいドキュメントを提供します。

2.11. ビデオ通話と Live Messenger のサポート

図 10Empathy の新機能: ビデオ通話

3.4 では、チャットアプリケーションである Empathy も数多く改善しています。真っ先にあげられるのは、新しく追加された音声とビデオ通話のインターフェースです。これはビデオ通話するのに便利なだけでなく、GNOME 3 に完全に統合されているために、着信があったらすぐに応答できるようにもなっています。

もうひとつの Empathy の大きな新機能は、Windows Live Messaging と Facebook Chat のサポートです。これにより友人たちとこれまで以上に簡単にチャットできます。

Empathy の今回のリリースには、以下のような改善が数多く行われています:

  • アカウントダイアログは部分的に再設計され、より使いやすいシンプルなインターフェースになりました。
  • Contacts との統一感を向上し、ユーザーインターフェースをシンプルにしました。これにより、リンクの提案のように Empathy が Contacts の機能を使えるようになっています。

2.12. 多くのアプリケーションの強化

今回のリリースでは他にも多くのアプリケーションが改良されています。通常の不具合修正と同様に、目に見える改善や新機能が追加されました。そのいくつかを見ていきましょう:

  • ファイルマネージャーの Nautilus に、「元に戻す」機能が追加され、一度行った変更を元に戻せるようになりました。操作ミスを修正するときに便利です。
  • CD 取り込みツールである Sound Juicer に新しいメタデータ取得機能が追加され、複数のディスクに渡るアルバムのサポートが強化されました。
  • テキストエディターの gedit は GNOME と同じくMac OS X でも動作するようになりました。
  • ウェブカメラアプリケーションの Cheese は標準のビデオフォーマットとして WebM を使用します (以前は Theora でした)。
  • ゲームのインターフェースが現代的になりました。ステータスバーは削除され、アプリケーションメニューが追加されるなどしています。
  • システムモニターControl Groups の情報も表示できるようになりました。
  • 画像ビューアー (Eye of GNOME とも呼ばれています) には、新たにメタデータサイドバーが備わりました。これにより、画像を表示しながら、同時にそのプロパティを閲覧できます。
  • Kolab Groupware への接続にEvolutionを使えるようになりました。複数の Kolab アカウントも同時に使えます。オフラインモードや、拡張された Free/Busy リスト、同期時の衝突チェックと解決機能もすべてサポートしています。
  • Evolution のアカウント設定アシスタントにも、一般的なE-メール・プロバイダーの自動的認識機能が追加され、設定の手間が減りました。おまけとして、サイドバーにあるアカウントを並び替えられるようにもなっています。

3. 新しくなったこと 〜アクセシビリティ〜

GNOME 3.4 はこれまでの GNOME 3 の中でもっともアクセシビリティの高いバージョンです。あらゆる人にとっての信頼性と使いやすさが強化されています。GNOME はより多くのリソースを投入してアクセシビリティへの貢献をよりいっそう強化し、2012 年を GNOME アクセシビリティの年とするべく、Friends of GNOME 資金調達キャンペーンを始めました。

本リリースでは GNOME アクセシビリティ機能にいくつか特筆すべき拡張が行われています。以下のとおりです:

3.1. Orca 統合の進化

GNOME 3 のスクリーンリーダー支援は進化しました。つまり、Orca スクリーンリーダーの利用者は GNOME 3 をコンピューティング環境として利用できるようになったのです。統合作業については将来のリリースに向けて開発が続いていますので、Orca の利用者からのフィードバックをお待ちしています。

Orca のパフォーマンスもまたこのバージョンで大幅に向上しました。これにより新しいバージョンではより早くなり、応答も改善しました。

3.2. より良くなったハイコントラストモード

図 11新しいハイコントラストアイコン

このリリースサイクルでハイコントラストテーマにはいくつかの改善が行われました。GNOME の新設された、あるいは更新されたインターフェースコンポーネントは、ハイコントラストモードをサポートするようになりました。このモードで用いられるハイコントラストアイコンもまた進化、拡張され、GNOME のハイコントラスト時の見た目がよくなり、使える範囲も広がりました。

3.3. 自由に設定できるズーム

図 12新しいズーム設定

このバージョンからズーム (拡大鏡) 機能の設定が追加されました。新しいズームオプションによって、拡大率、マウスカーソル追跡、拡大領域のスクリーン上の位置、マウスやタッチパッドを探すときに役立つ照準線の表示などが設定できます。

4. 新しくなったこと 〜開発者向け〜

以下の変更はGNOME 3.4開発者プラットフォームで利用する開発者向けで重要なものです。開発者向けの変更に興味がない場合、セクション 5 - 国際化へ読み進めることができます。

GNOME 3.4 に含まれるものが、GNOME 開発者プラットフォームの最新リリースとなります。これは、クロスプラットフォームのアプリケーション開発で使用することができる、GNU LGPLの下で利用可能なAPI-stableとABI-stableのライブラリの一群から構成されています。

GNOMEでの開発のもっと詳しい情報は、GNOME Developer Center で手に入ります。

4.1. GLib 2.32

GNOME の低レベルなユーティリティライブラリである GLib にさまざまな改良が加えられました:

  • スレッドのサポートが書き直されました。副作用として、g_thread_init() の呼び出しはもはや不要となりました。
  • GNOME デフォルトのストレージのバックエンドである GSettings が、Mac OS X をネイティブでサポートするようになりました。プラグインや拡張機能において、GSettingsSchemaSource 経由での Gsettings のサポートも向上しました。
  • GResource がバイナリーへのリソースの埋め込みを提供します。
  • Unicode 6.1 のサポート
  • 新しいネットワークステータスモニターのインターフェース: GNetworkMonitor
  • GLibGTK+ でバージョンを指定した非推奨の設定ができるようになりました。GLIB_VERSION_MIN_REQUIRED (GTK+ では GDK_VERSION_MIN_REQUIRED) を使うことにより、例えば、最新の安定版より前に非推奨となったが、最新の開発バージョンである 2.31 ではそうではない API について、警告を表示させることができます。同様の機能が、新しすぎる API についても、GLIB_VERSION_MAX_ALLOWED (GTK+ では GDK_VERSION_MAX_ALLOWED) を使うことで実現できます。

4.2. GTK+ 3.4

GTK+ 3.4 は GTK+ ツールキットの最新リリースであり、GNOME の核になるものです。GTK+ 3.4 には、多くのバグフィックスに加え、開発者向けの新機能が含まれています。

  • テーマ機能でより完全な CSS がサポートされるようになり、また、テーマや背景での透明度の機能が改善されました。
  • 'Control' の代わりに 'Primary' を使うことで、クロスプラットフォームのキーボードショートカットが改良されました
  • タッチイベントの基本的なサポート(そしてXInput 2.2のサポート): ウィジェットが GtkWidget::touch-event シグナル に接続することにより タッチイベント を受信できるようになりました。GTK+ はタッチイベントを使って、GtkScrolledWindow でのキネティックスクロールや、タッチに対応したメニューの振る舞いを実装しています。
  • 新しいスクロール方向の GDK_SCROLL_SMOOTH と、新しいイベントマスク GDK_SMOOTH_SCROLL_MASK により、スムーズスクロールがサポートされるようになりました。gdk_event_get_scroll_deltas() でスクロールの差分が提供されます。
  • セッションのサポート: GtkApplication がログアウトの通知と交渉をサポート (非推奨の EggSMClient に似たものです)
  • GtkApplication での Mac OS X のサポートを含むメニューとウィンドウのサポート

4.3. Clutter 1.10

ハードウェアアクセラレーションを活用したユーザーインターフェース向けの GNOME グラフィックライブラリの Clutter には、次の改良が加えられました。

  • 複数のバックエンドのサポート: Clutter では異なるプラットフォームをサポートするようコンパイルすることができ、実行時にバックエンドを選べるようになりました。
  • GDK バックエンド: Clutter は GTK+ でも使用されているウィンドウシステムのライブラリである GDK を使うことができます
  • テキスト入力でのパスワードヒントのサポート: パスワードヒントが有効になっていると、テキストエントリーに入力された最後の文字がちょっとの時間だけ表示され、不正確なテキスト入力になってしまうプラットフォーム (例: タッチスクリーンキーボード) でパスワードを安全に入力し、かつ、他を隠すことができるようになりました。
  • GLibGTK+ と同様、バージョン指定での非推奨の定義 (前述を参照)。
  • Mac OS X と Wayland のサポートの向上
  • 新しいシーングラフ API: ClutterActor が Clutter アプリケーション中のシーンの定義を扱う唯一のクラスとなりました。これにより ClutterContainer インターフェース、ClutterGroupClutterRectangle そして ClutterBox のほとんどが非推奨となりました。
  • ClutterActor の新しい Implicit Animation API。
  • 新しい ClutterContent のインターフェース。次の 2 つの実装がありますCairo ドローイング向けの Canvas、およびイメージデータ表示向けの ImageContent インターフェースは、Actor の content をペイントするための新しいレンダーオブジェクト API をサポートします。
  • ClutterScript の UI 定義におけるローカライズ可能な文字列と GResource のサポート。
  • リピートカウントとプログレスモードが Timeline クラスに追加されました。
  • Clutter 搭載の GLSL ベースの効果の性能改善。
  • 新しい明るさ-コントラスト効果。

4.4. DConf

GNOME のデフォルトの GSettings バックエンドにはいくつかの改良点があります。

  • DConf は複数のユーザーの設定データベースを読み込めるようになりました。dconf プロファイルフォーマットは、これまでの先頭行はユーザーデータベースと仮定するというやり方に替わって、ユーザーデータベースとシステムデータベースを明示的に区別するようになりました。バージョン管理されたホームディレクトリを使うなどして、複数のシステム間で dconf プロファイルの一部を共有することに興味があるユーザーは、ライブ書き込みの dconf データベースに加えて、共有の dconf データベースから読み取るために、このサポートを使用することができます。
  • DConf は、/etc/dconf/profiles/ からの相対パス指定に加え、$DCONF_PROFILE という絶対パスによる dconf プロファイルの指定も新たにサポートするようになりました。これによりユーザーはプロファイルをホームディレクトリに置いて、複数のユーザーデータベースを指定するなどといったことができるようになりました。

4.5. 廃止予定のライブラリの使用について

古びた技術をより優れたものに置き換える継続した取り組みが、いっそうの進展を見せました。

  • いくつかのアプリケーション (たとえば gdmgnome-control-centergnome-gamesgthumbgucharmapmetacitymutter、および Rhythmbox) は、非推奨の GConf の代わりのバックエンドとして GSettings を使うようになりました。mutter に関しては、これによりいくつかのキーバインドが変更されています
  • libgofficelibgnomekbd、および libxklavier は、GObject introspection のサポートが施され、モジュールの API が自動的に他の様々な言語やランタイムで利用できるようになりました。関連事項として、gevice はもう更新される予定のない非推奨な Python バインディングの使用を止めて、introspection の使用に移行しました。
  • いくつかのパッケージ (gnome-bluetoothgnome-control-centergnome-settings-daemongnome-shell そして sound-juicer など) は dbus-glib ではなく GDBus を、そして libunique ではなく G(tk)Application を、それぞれ使うよう書き直されました。

4.6. その他の開発者向けアップデート

GNOME 3.4 で加えられた、その他のプラットフォームの改良は次のとおりです。

  • 統合開発環境 Anjuta のプロジェクト管理機能はいっそう使いやすく、強力になりました。新しい "Find in files" ダイアログを搭載し、プロジェクトファイルの検索ができるようになり、またディレクトリかファイルタイプ、あるいはその両方でフィルターすることができるようになりました。検索は、正規表現をサポートし、検索結果のすべて、あるいは一部のみを置換することもできます。Anjuta はまた、ユーザーインターフェースデザインツールの Glade との統合を改善し、ウィジェットとコードとを自動的に結び付けられるようになりました。
  • いくつかのアプリケーション (gnome-dictionarygnome-system-monitortransmageddon など) は、freedesktop.org のディレクトリ仕様 に準じることで、デスクトップ間の互換性を向上させました。
  • テキストエディターの gedit を使う開発者は、clang を活用した C、C++、および Objective-C のコードアシスト機能と Python のコードアシスト機能を提供する新しいプラグイン gedit-code-assistance を使用できます。
  • Evolution-Data-Server は、以前は IMAP アカウントを追加すると、すべての (古い) メッセージをダウンロードしていました。今では、要求があった場合にだけ古いメッセージをダウンロードするように定義できます。これにより、帯域やディスクスペースを節約できるようになります。また、性能や利便性の点で、いくつかの同期 API の改良も見られます。
  • PyGObject の新しい pygtkcompat.py モジュールは、非推奨の PyGTK とのより簡単な後方互換性を提供します。
  • 便利なように、Empathy のデバッグウィンドウに "Pastebin へ送信" オプションを設けました。

5. 国際化

世界中の GNOME 翻訳プロジェクトのメンバーの尽力により、GNOME 3.4 では 50 を超える言語でのサポートを提供でき、各言語は少なくとも 80 パーセントのメッセージの翻訳を達成しています。また、ユーザー向け、管理者向けドキュメントなども多くの言語に翻訳されています。

サポートしている言語:

  • アストゥリアス語
  • アッサム語
  • アメリカ英語
  • アラビア語
  • イギリス英語
  • イタリア語
  • インドネシア語
  • ウイグル語
  • ウクライナ語
  • エストニア語
  • オランダ語
  • カタロニア語
  • カタロニア語 (バレンシア)
  • ガリシア語
  • ギリシア語
  • グジャラート語
  • スウェーデン語
  • スペイン語
  • スロベニア語
  • セルビア語
  • タイ語
  • タミル語
  • チェコ語
  • テルグ語
  • デンマーク語
  • トルコ語
  • ドイツ語
  • ノルウェー語 (ブークモール)
  • ハンガリー語
  • バスク語
  • パンジャブ語
  • ヒンディー語
  • フィンランド語
  • フランス語
  • ブラジル系ポルトガル語
  • ブルガリア語
  • ヘブライ語
  • ベトナム語
  • ベラルーシ語
  • ポルトガル語
  • ポーランド語
  • マケドニア語
  • ラトビア語
  • リトアニア語
  • ルーマニア語
  • ロシア語
  • 中国語 (中国)
  • 中国語 (台湾)
  • 中国語 (香港)
  • 日本語
  • 韓国語

他の多くの言語は部分的にサポートされています。それらの言語ではメッセージの半分以上が翻訳済みです。

GNOME ほど多くのソフトウェアパッケージを新しい言語に翻訳することは、最も熱心な翻訳チームにとっても途方もない大仕事になります。今回のリリースでは、ベラルーシ語チームが素晴らしい尽力をみせ、3.0 時点と比べて 39 ポイント超も翻訳率が上昇しました。また喜ばしいことに、クメール語チームでは 3.2 から 24 ポイント、マケドニア語チームでは 3.2 から 21 ポイントも上昇しました。

詳細な統計や情報については、GNOME の翻訳ステータスのサイトをご覧ください。

6. GNOME 3.4 の入手

GNOME 3.4 をお使いのコンピューターにインストール、またはアップグレードする場合、ご利用のベンダーやディストリビューションが公式に提供するパッケージをインストールすることをお勧めします。人気のあるディストリビューションでは、すぐに GNOME 3.4 が利用可能になるでしょう。開発版において GNOME 3.4 がすでに利用できるディストリビューションもあります。

GNOME を試してみる場合、Live イメージをダウンロードしてください。Getting GNOME のページから取得できます。

もしあなたが勇敢で忍耐強く、かつ GNOME をソースからビルドしたいというのであれば、JHBuild の使用をお勧めします。JHBuild は、Git リポジトリから GNOME の最新版をビルドするためのツールです。JHBuild を使えば gnome-3.4 用のモジュールセットを利用して GNOME 3.4.x をビルドすることができます。

7. GNOME 3.6 に向けて

GNOME 3 シリーズの次のリリースは 2012年の9月に予定されています。3.6 では多くの新機能の追加や機能強化が計画されています。

7.1. ユーザー側から見た変更

  • システムコンポーネントの完全な統合に継続して取り組みます。生活を楽にしてくれるよう細かいところまで引き続き注目しています。

  • Boxes は、開発段階にあります。この GNOME 3 の新アプリケーションを使うと、仮想マシンを使うのと同じようにリモートマシンに簡単に接続できるようになります。Boxes の最初のテストバージョンは、GNOME 3.4 ですでに利用できます。しかしながら、お使いのシステムにはまだ搭載されないこともあるでしょう。

    図 13Boxes
  • Evolution では、GtkHtml の代わりに WebKit を利用し、HTMLメッセージのレンダリングを改良します。

7.2. アクセシビリティの変更

  • Orca を用いた GNOME Shell のアクセシビリティ機能を継続して改良し、また、OrcaWebKit2GTK+ サポートをさらに改善します。
  • GNOME Shell 拡大鏡に、明るさとコントラストを調節するオプションを追加します。

7.3. 開発者に関連した変更

  • アプリケーション機能としての、GNOME Shell におけるサーチプロバイダーのサポート。
  • Web (訳注:Epiphany のこと) は WebKit2GTK+ の使用に切り替える可能性があります。
  • GTK+ は、イベントハンドラーでのウィジェットの振る舞いの実装をやめ、代わりに、振る舞いを別個のオブジェクトとしてウィジェットに追加できるモデル (Clutter と同じようなもの) に移行することを計画しています。

8. 謝辞

GNOME コミュニティの助けのもと、Allan Day、André Klapper、Olav Vitters が編集しました。翻訳は、日本語翻訳チームの過去の翻訳成果をベースに、草野 貴之、Naruhiko Ogasawara、Mitsuya Shibata、OKANO Takayoshi、Mako N、あわしろいくや、松澤 二郎が行いました。

このリリースはGNOME コミュニティの多大で献身的な働きなしには達成できませんでした。みなさんに祝福と感謝を捧げます。

このリリースノートはどんな言語にでも自由に翻訳して頂いて構いません。もしあなたの言語に翻訳したいのであればGNOME 翻訳プロジェクトまで連絡してください。

この文書は Creative Commons Sharealike 3.0 license のもとで提供されています。Copyright © The GNOME Project